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事業譲渡

事業譲渡とは、会社が営んでいる事業の全部又は一部について譲渡する行為です。特に会社にとって重要な事業が譲渡されると株主、会社の債権者にとって大きな影響が生じます。そこでこの事業譲渡は、合併・会社分割などと同様に株主総会の決議が必要となります(会社法467条1項)。

そもそも事業譲渡とは何を意味するのか問題となります。
事業譲渡とは、「一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む) の全部または重要な一部を譲渡」(最判40・9・22)を意味します。

重要な一部の譲渡に該当する場合でも「譲り渡す資産の帳簿価格が会社の総資産額として法務省令で定める方法により算出される額の5分の1超えないもの」については、特別決議は不要としています(会社法467条1項2)。

株主総会の決議が必要な場合として会社法が規定している事項は下記の通りです(抜粋) 事業の全部の譲渡 事業の重要な一部の譲渡 他の会社の事業の全部の譲受け

▼ 譲渡手続き ▼ 事業譲渡のメリット ▼ 事業譲渡と会社分割との違い 
▼ 事業承継としての活用法
 ▼ 不動産・動産の移転について ▼ 債権債務の移転について 
▼ 事業譲受会社の責任 ▼ 事業譲渡契約書の策定 ▼ 反対株主の買取請求権利 
▼ 敵対的買収防衛策としての活用 ▼ 結びにかえて 

譲渡手続き

会社法の規定によれば、事業譲渡を行う場合には、合併に準ずる手続きが必要とされます。すなわち、株主総会の決議が必要となります。個々の会社の規模などにより「事業」に該当するか否かは判断が異なるので、慎重な審査が必要となります。法律の手続き要件を欠いた時には、無効の訴えを提起される危険性があります。ただし、会社の規模によっては、株主利益を害することが無いと判断されたケースでは、簡易な手続きにて行うことが認められています。

事業譲渡のおおまかな流れは次のようになります。

譲渡会社、譲受会社において株主総会における承認の可否について簡単なチャート図にまとめてみました。

事業譲渡のメリット

事業譲渡は、合併と異なり権利義務が包括的に承継されません。すなわち、会社の債務などを引継ぐ必要がありません。偶発的債務を遮断することも可能となります。もっとも合併・会社分割などは事前に十分なデュー・デリジェンス(法的監査)を行ったとしてもリスクを完全に把握することはできません。特に偶発的債務などは予測できない場合もあります。契約書で一定の条項を定めたとしても、全てを排除することは不可能です。この点、事業譲渡は、個々の権利移転なので、この危険を回避することが可能となります。個々の事情(債務額の有無・将来の訴訟の可能性など)を具体的に考察しながら、譲り受ける事業の範囲・種類について選択することが可能です。

事業譲渡と会社分割との違い

事業譲渡と会社分割は似たような効果を持ちます。もっとも法的効果はかなり大きく異なっています。具体的な違いについては、次のとおりです。列挙しているのは幾つかある中の少しです。その他についてはお問合せください。

権利承継について
事業譲渡においては、特定承継であり、承継する債務の範囲を特定することが可能です。会社分割は包括承継であり、偶発的債務についても承継する。もっとも責任を負う範囲は、承継した財産の範囲に限定されます(会社法759条2項)。

許認可について
事業譲渡においては、許認可は承継されません。譲受会社において新規に申請する必要があります。会社分割において許認可が承継されるか否かは個々の業法により定められています。個別の業法に従うことになります。

事業承継としての活用法

事業承継の方法として事業譲渡も活用できます。特に合併などと異なり会社法が要求している手続きが簡素である点が挙げられます。合併においては、存続会社・消滅会社のいずれにおいても株主総会の承認や合併契約書の作成などが必要となります。これに対して事業承継については、合併などと比して要件が厳格ではありません。

場合によっては、事業承継の方法として事業譲渡について選択することが可能となるケースもあります。ただ、常にベストとは言えません。いくつかある選択肢の1つとして検討に値します。

不動産・動産の移転について

不動産や動産についての所有権は当事者の意思表示により移転します(民法176条)。事業譲渡の対象となる目的物について契約書に移転する記載があれば、当然に移転することになります。当事者間において移転する事と、それを第三者に対抗(主張)する事は別の問題です。いわゆる対抗要件と呼ばれるものです。

不動産については、登記(177条)であり、動産については引渡し(178条)となっています。この対抗要件について具備しなければ、第三者に対して対抗(主張)することはできません。事業譲渡契約書の作成と同様に対抗要件の具備についても重要な問題です。

債権債務の移転について

事業譲渡に伴って関連する債権・債務も移転することになります。もっとも債権債務については当然に移転しない点に注意が必要です。この債権・債務の移転についても第三者に対抗(主張)するには対抗要件が必要となります。債権の場合は、債権を譲渡した者が債務者に対して債権を譲渡した旨の通知を行うか、債務者の承諾が必要となります(民法467条1項)。譲渡された側から債務者に代理して通知を行うことはできません。ただし、代理人として通知することは可能と解されます。なお、この通知は確定日付のある証書で行う必要があります(民法467条2項)。

債務についても当然に移転しません。債務を引継ぐ者が債務引受を行う必要があります。債務引受については、譲渡会社が債務を免れる免責債務引受と、譲渡会社と譲受会社がそれぞれ債務を負担する重畳的債務引受があります。免責的債務引受については、債務者の承諾が必要です。

事業譲受会社の責任

事業譲渡においては、合併等と異なり権利などが包括的に承継されません。すなわち、譲渡契約によって承継する権利の範囲を決定することが可能となります。債務なども選択的に承継することが可能となります。もっとも事業譲渡の当事者以外の者については、いかなる権利(債務)が移転したのか容易に知ることは困難です。債務について公示する方法はありません。そこで、第三者について保護するための規定が会社法において定められています。

【商号を利用している場合】
譲渡人が有していた商号を譲受人が引続き使用する場合については、事業について生じた一切の債務について弁済する必要があります(会社法22条1項)。もっとも商号を使用する場合に常に譲受人に責任を負わせることは負担が大きくなります。そこで一定の場合には、弁済する責任が免れることができます(会社法22条2項)。詳細な要件については、お問合せください。
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事業譲渡契約書の策定

合併・会社分割・株式交換と異なり事業譲渡においては、契約書の策定は法律上の要件となっていません。もっとも紛争防止の必要から事業譲渡契約書が策定されることが一般的です。法律上で要求されていないことから如何なる事項について盛込むかについても自由です。合併の場合については、合併契約書において記載する事項が法定されています。

譲渡の対象財産
譲渡価格及び対価の支払い方法
引渡し(対抗要件具備)の日、いわゆるクロージングの日
株主総会の決議が必要な場合は、株主総会の承認の日
株主総会の承認が得られない場合の解約手続き
交渉期間・独占契約条項
双方の善管注意義務の範囲
譲渡対象の従業員の処遇
秘密保持に関する事項

上記に限定されるものではありませんが、一般的に記載される事項です。この項目以外にも様々な事態を想定して条項について盛込むことがあります。

反対株主の買取請求権利

事業譲渡に反対する株主には、会社に対して自己の保有している株式について適正価格で買取ことを請求する権利があります(会社法469条1項)。もっとも事業の全部について譲渡する場合で、株主総会の決議と同時に会社の解散が決議された場合は、株式買取請求については認められません(会社法467条1項但書)。いわゆる、救済型事業譲渡については、反対株主の買取についは排除されます。

敵対的買収防衛策としての活用

敵対的買収防衛策として事業譲渡が活用される場合も考えられます。クラウン・ジュエルと呼ばれる防衛策です。本来、事業譲渡は、会社の戦略的な組織再編として活用されることが期待されています。もっとも、重要な資産などを譲渡することで、結果的には買収者の買収意欲を削ぐ事になります。もっともクラウン・ジュエルについては株主の共同利益・取締役の善管注意義務違反の可能性、背任・特別背任など大きな問題点があります。慎重な考察が必要となります。

⇒クラウン・ジュエルについての詳細・問題点はコチラ

結びにかえて

事業譲渡を行うには、株主総会、取締役会の手続きを踏む必要があります。株主利益を保護するためには避けて通れません。譲渡契約書が必要であり、譲渡する側の会社状況などを含めた、法的監査を慎重に行うことは必須と言えます。特に対象企業の定款、個々の契約条項について事業譲渡を妨げる内容(クロスデフォルト条項など)の可否、一方的な解除条項の有無。該当性、現在及び将来における紛争発生の有無について多角的な側面から精査する必要があります。

特に事業譲渡においては、法律で契約書の策定が定められていないことから、しっかりとした条項を盛り込むことが成功に繋がります。事前のデューデリジェンス(買収監査)、クロージング手続きについて十分な注意を払う必要があります。