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クラウン・ジュエルとは

クラウンジュエル(Crown Jewel)とは、敵対的買収を仕掛けられた場合に、会社の保有する重要な財産・資産・事業について第三者・子会社に売却することで守る敵対的買収防衛策です。一般には焦土作戦と呼ばれています。王冠(クラウンcrown)から宝石(ジュエルjewel)を外すことによって価値の無いモノにすることになぞらえています。有用な資産・財産を失った場合に買収意欲が削がれることに期待して用いる方法と言えます。事業譲渡の方法を用いた敵対的買収防衛策といえます。
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▼ 導入(発動)のための要件  ▼ 敵対的買収防衛策としての問題点

導入(発動)のための要件

事業譲渡を行うには、株主総会の承認が必要となります。具体的に株主総会の承認を得る必要があるのは、会社の全部の事業、重要な一部の事業を売却したり、事業の全部の経営を委任する場合です。(会社法467条)。しかも事業譲渡(全部の経営委任を含む)を株主総会で承認するには、3分の2以上の賛成が必要です(会社法309条2項11号)。かなりハードルは高いと言えます。

なお、事業の全部・重要な事業の一部とは何を指し示すのか問題となります。 判例によれば、「一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能している財産の全部または重要な一部」としています(最高裁昭和40・9・22)。

これに対して重要な財産の処分については取締役会の決定で行うことができます(会社法362条4項1号)。重要な財産の処分による防衛策であれば、機動的に行える可能性があります。「重要な財産の処分」とは、「当該財産の価格、その会社の総資産に占める割合、財産の保有目的などを総合的に考慮」するとしています(最高裁平成6・1・20)。

敵対的買収防衛策としての問題点

取締役には、善管注意義務・忠実義務が課されています(会社法330条・355条)。これらの善管注意義務・忠実義務は、会社のために職務を行うために課された義務です。すなわち、会社に損害を与えるような職務執行を行えない(行ってはならない)ことを意味します。

すなわち、敵対的買収防衛策としてクラウンジュエル(焦土作戦)を行うことは、取締役が自らに課せられている善管注意義務・忠実義務に反している可能性があります。重要な財産・事業を売却することは会社にマイナスになり、損害を与えてしまう危険があります。また、結果として株主の利益を損なってしまいます。 株主により代表訴訟を提起される危険性があります。また、会社の債権者にとっても会社の財産的価値を有するものが譲渡・売却されるとなれば、その権利を害されることになります。

このように、取締役としての善管注意義務・忠実義務、株主利益の観点を総合的に考察すれば、敵対的買収防衛策としてクラウンジュエル(焦土作戦)を用いることは現実的ではありません。むしろ、用いることはできないと思われます。背任罪や特別背任に該当する危険すらあります。

仮に敵対的買収防衛策として導入する場合には、導入する理由・目的・株主利益との整合性などを厳密に説明する必要があると考えられます。その上で、株主総会の承認を得るなどの担保が必要でしょう。この場合は、会社法が要求している以上の圧倒的多数による承認が得る必要があると考えられます。現実的には、導入ハードルは相当高いと思われます。 。