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略式組織再編(Short Form Reorganization)

【略式組織再編(Short Form Reorganization)とは】

略式組織再編とは、合併・会社分割・株式交換・事業譲渡などの組織再編行為(広義のM&A)を一定の支配関係のある会社(特別支配会社)が行う場合に株主総会の特別決議による承認を不要とする制度です。
合併・会社分割・株式交換・事業譲渡などの組織再編を行う場合には、株主総会の特別決議(3分の2以上の賛成)が必要です。なお、似た制度で簡易組織再編行為もあります。詳細はコチラ

ただし、株主総会を開催しても当然に賛成が得られる事情がある場合にまで形式的に株主総会を開催することになれば、時間的・費用的に負担となります。そこで、一定の支配関係があり、当然に賛成がされると想定される場合には、株主総会を省略して、合併・会社分割・株式移転・事業譲渡について行うことを認めています(会社法784条1項)。

特別支配会社とは、総株主の議決権の10分の9以上(90%)以上を所有している場合です。なお、この割合は定款において変更することが可能となります。ただし、90%を下回る変更は認められません(会社法468条1項)。
※なお、一社だけが90%を保有していなくても、100%子会社を通じて合計で90%を保有している場合も認められます。

例えば、A会社とB会社が合併を行うことを予定している場合に、A会社はB会社の90%以上の株式を保有しているとします。この場合、B会社はA会社の特別支配会社となります。B会社において株主総会を開催しなくても親会社であるA会社が賛成すれば、当然に総会で決議されます。このような場合にB会社においては、株主総会の特別決議が不要となります。

略式組織再編行為が認められない場合

吸収合併・株式交換において、合併等の対価の全部または一部が譲渡制限株式などである場合において、合併などにより消滅する会社が公開会社であり・種類株式発行会社でない場合は、株主総会の特別決議(3分の2上の賛成)が必要となります(会社法784条1項但書)
※ここでの公開会社とは、上場しているという意味ではありません。会社法上の公開会社という意味です。

例えば、A会社(非公開会社・種類株式発行)・B会社(公開会社・種類株式不発行)であるとます。またA会社はB会社の90%以上の株式を保有しています。合併の対価としてA会社の種類株式を交付するとします。この場合は、B会社は株主総会の特別決議が必要となります。

また、新設合併・新設分割・株式移転については、略式組織再編行為は認められません。

▼ 略式組織再編の流れ ▼ 実務への応用 ▼ 少数株主の利益保護 
▼ 差止めの要件 ▼ 結びにかえて 

略式組織再編の流れ

通常の合併、吸収分割、株式交換の手続きに比べ、かなり簡素化した手続きで行うことが可能となります。大まかな流れを図にすると下記のようになります。

実務への応用

100%の株式取得(完全子会社)を行う場合において、90%を公開買付(TOB)により取得して、残りの少数株主対策として、略式組織再編(合併)を行い・少数株主に対しては対価として現金を交付すること(キャッシュアウトマージャー・Cash Out Merger)により100%取得が可能となります。また、ゴーイングプライベート(非公開化)のために100%取得が必要な場合についても、二段階の作戦として用いる方法もあります。 実際のM&Aの現場では、積極的に活用できる方法といえます。

少数株主の利益保護

存続会社が90%の大量に株式を保有しても、100%を保有していないことから、少数株主も存在します。この少数株主の利益保護についても会社法は規定しています。合併・会社分割・株式交換・事業譲渡などの略式組織再編行為について差止める規定(会社法784条2項・796条2項)・反対株主の買取り請求があります。(会社法785条1項・797条1項)。 差止めの要件 合併・会社分割・株式交換・事業譲渡などが定款に反している(1号) 合併・会社分割・株式交換・事業譲渡などの条件が著しく不当(2号)

差止めの要件

合併・会社分割・株式交換・事業譲渡などが定款に反している(1号)
合併・会社分割・株式交換・事業譲渡などの条件が著しく不当(2号)

差止められると重大な影響があることから、株主にとって重大な影響が生じる事由に限定されています。特に2号の「条件が著しく不当」とは、合併比率などが不平等などに限られます。

結びにかえて

簡易組織再編・略式組織再編のいずれも一定の条件が整った場合には、株主総会の決議が省略できる制度です。あくまでも株主総会の承認が不要となるのみで、それ以外の手続きは省略することはできません。また、無効請求・差止め制度があることから、慎重に手続きを履行する必要があります。合併・会社分割・株式交換などの広義のM&Aは手続き・条文操作も複雑です。

もっとも実際の現場では、事業再編手続きの中で多く用いられる制度です。法律の定める手続きを確実に実行すれば、機動的でスピーディーな組織再編などを行うことができ、業務強化などに役立ちます。 富山綜合法務事務所は、企業戦略法務・M&Aなどのビジネス法務の分野を得意としています。個々の企業様に合わせた最善の方法をご提案しています。戦略的・法務的な観点からベストなアドバイスを行っています。ささいな事でもお気軽にご相談ください。