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簡易組織再編

簡易組織再編とは、会社が会社分割・合併・株式交換・株式移転などの組織再編(広義のM&A)を行う場合に、法律で定められた場合は通常よりも簡単な手続きにおいて行うことができることです。

通常、合併・分割などの会社にとって重要な行為を行うには、取締役会の承認・株主総会での特別決議(3分の2以上の賛成)が必要となります。さらに会社の債権者にとつても重要な結果をもたらすことになるので、合併する旨の公告を行うなど債権者保護手続きが必要となります。

 しかし、会社・株主にとってあまり大きな影響を及ぼさない合併・分割などの場合にまで、株主総会の承認手続きが必要となると、事務手続きが増えます。株主総会の招集通知は2週間前までに発送する必要があり、必要書類の添付など事務作業は膨大になります。

そこで、一定の場合には、株主総会で株主の承認を必要としないで、取締役会の決定のみで合併・分割などを行うことができるようになりました。この規定により、機動的・戦略的な会社組織再編(M&A)を行うことが可能となりました。

▼ 簡易組織再編を行える場合    ▼ 簡易組織再編(合併・会社分割・株式交換)の流れ
▼ 簡易組織再編が認められない場合 ▼ 結びにかえて

簡易組織再編を行える場合

常に簡易組織再編行為が行えるものではありません簡易組織再編を行える場合は会社法において要件が定められています。この会社法で定められている場合以外は、簡易組織再編を行うことができません。

■簡易吸収合併

合併により消滅する会社の株主・社会に対して交付する株式の数に1株当たりの価格を乗じた額・交付する社債・株式以外の財産(現金など)の合計額が、合併により存続する会社の純資産額の5分の1(20%)を超えない場合(会社法796条3項)。純資産額の計算方法は、会社法施行規則196条に定められています。

※この5分の1(20%)の割合については、定款で下回る値を定めることができます。ただし、上回る値を設定することはできません。
つまり、消滅する会社に交付する財産(株式・現金・社債など)の合計額が存続する会社の資産の5の1以下の場合は、株主に与える影響が少ないので、株主総会での承認は不要となります。

例えば、純資産1億円のA会社がB会社を吸収合併する場合に、B会社の株主に対して交付する合計額(株式・社債・現金など)が1,500万円であったケースで、A会社(存続会社)の資産(1億円)から見れば、交付した合計金額(1,500万円)は、全体の15%になります。会社法で定める20%以下なので簡易組織再編(簡易吸収合併)が認められます。すなわち株主総会の特別決議が不要です。
※新設合併(合併会社を新設)の場合には、簡易組織再編行為は認められません。

■簡易吸収分割

分割会社における簡易吸収分割
吸収分割により承継会社に資産を承継させ、新設分割により新会社に承継させる資産の価格が総資産額の5分の1(20%)を超えない場合は、株主総会の特別決議(3分の2以上の賛成)は不要です(会社法784条3項・805条)。総資産の計算方法か会社法施行規則187条において定められています。

この5分の1(20%)の割合については、定款で下回る値を定めることができます。ただし、上回る値を設定することはできません。

例えば、レストラン事業(資産価値1,000万円)と賃貸事業(資産価値9,000万円)をおこなっているA会社がレストラン部門をB会社に承継(分割させる)させる場合に、全体の総資産(1億円)に占めるレストラン事業の価値は10%であり、このケースでは、A社では株主総会の承認なくB会社に承継させることができます。

承継会社における簡易吸収分割
分割会社(資産を譲り渡す)の株主・社会に対して交付する株式の数に1株当たりの価格を乗じた額・交付する社債・株式以外の財産(現金など)の合計額が、承継会社(資産を譲り受ける)の純資産額の5分の1(20%)を超えない場合

この5分の1(20%)の割合については、定款で下回る値を定めることができます。ただし、上回る値を設定することはできません。

例えばレストラン事業を行っているA会社(純資産1億円)がB会社の行っている飲食事業を譲り受けたいと考えているケースで、対価として1,000万円を支払う場合には、株主総会の承認は必要ありません。

 
■簡易新設分割
 

新設分割承継会社に承継させる資産の帳簿価格の合計額が、新設分割会社の総資産額の20%を超えない場合は、株主総会の決議を省略する事ができます(会社法805条)。

その他として、株式交換においても同様の要件を満たすことにより株主総会の承認を得ることなく簡易な手続きにより組織再編行為を行うことが可能となります。ただし、株式移転・新設合併については簡易組織再編行為を行うことが認められていません。

簡易組織再編(合併・会社分割・株式交換)の流れ

簡易組織再編に関する条文は複雑であり、多岐にわたり規定されています。おおまかな流れについてチャートにしてみました。

※合併消滅会社・株式交換子会社においては、通常の株主総会の決議が必要です。
※新設合併・株式移転については、簡易組織再編行為は認められません。

簡易組織再編が認められない場合

法律の定める要件をクリアして、簡易組織再編行為が可能である場合でも次の事情があれば、簡易組織再編を行うことはできず、通常とおり株主総会の特別決議が必要となります(会社法796条4項)。

法務省令で定める数の株主が ※具体的な内容は会社法施行規則199条参照
公告から2週間以内に
合併・会社分割などに反対の通知をしたとき

結びにかえて

簡易合併・分割・株式交換などは、広義のM&Aを機動的に実行する上でとても有効な行為となります。昨今は、事業再編等においてはこの広義のM&Aが会社経営において重要の意味を有しています。株主総会の特別決議が不要となるのみで、その他の法律が要求している手続き(合併契約書作成など)は省略することはできません。

 合併・会社分割・株式交換などは無効を主張することができるので、手続きに瑕疵がないように慎重に進める必要があります。また、簡易組織再編においても法的監査は欠かすことのできない最重要項目です。簡易手続きによる組織再編が認められなくても、通常の手続きにより組織再編を行うことは可能なので、広義のM&Aを進めることは可能です。